林業衰退が止まるか?森林経営政策を見る。

荒れる山林、林業衰退を止めれるか?

ときどき、国の林業政策に激怒する林業者や山林所有者がいます。

山持ち
山持ち

机上の論理だけでヤマの現場軽視だ!

林業社長
林業社長

林業の現実を理解しとらん!

「もう長年にわたり行政に裏切られ続けてきた…」と憤る林業者も少なくないです。

引退廃業したり、亡くなって林業をやめていく人も後を絶ちません。

林業が衰退したのは安い輸入材に押され、採算性を欠いたことはご承知のとおりです。

植林した人工林は手入れされずに荒れ果ててきました…。

そんな現状を何とかしようと、2012年から森林経営の林業政策が施行されてます。

ところが、冷静に政策施行後の結果をみると、かえって林業衰退が進行した感じもします…。

なぜ、日本林業は衰退したのか

戦後、少し経つと林業の衰退は始まっていた。

日本の林業衰退は、1950年代から始まったとされてます。

いくつもの要因が複合的に悪影響となりました。

衰退の主な理由を挙げていきます。

木材輸入の自由化

安くて高品質な輸入木材

戦後の木材需要の増加により国産材価格が高騰します。

すると、建築業などは安い木材を求めて木材輸入が解禁されます。

外国産木材が安価で入手可能になり、国産木材の需要が落ち込み始めます。

安い外国産木材は品質も高く、すぐに大人気になりました。

国産材需要減による収益悪化

輸入材はどんどん入ってきます。

需要を取られた国産木材は供給量が減り、伐採面積も減少して林業が衰退しはじめます。

高い国産材は安い輸入材に合わせて価格を下げざるを得ません。

製材工場は収益を悪化させていきます。

林業も経営が厳しくなり、徐々に規模を縮小していく事になります。

林業の労働力不足、高齢化

林業従事者
林業従事者

もっと高い給料に転職したい…

賃金が安い林業から、他の仕事へと労働力の移転が起こります。

離農するように都市部への人口流出が増加しました。

今も続く、林業の人手不足の歴史は長いです。

古くからの林家や山林所有者の高齢化により、さらに後継者不足となります。

「伐採は悪…」のレッテルと需要変化

以前は育林のために必要な間伐が、再生不可能な熱帯雨林の不法伐採と同じように見られてました。

「伐採は許されず、林業は植林育林のみ…」そんな世論の風潮が続いた時期もありました。

伐採を専門にする林業社には逆風でした。

さらに新築住宅においてツーバイフォーなど建築構法変化がおきてきます。

2×4材は輸入材が主流で、すぐに対応できない国産材は需要が低下します。

新たな国産木材用途がすぐに見つからなかった事も見逃すことが出来ません。

無かった長期林業政策

当時から国内林業発展に必要な政策や支援が不足していました。

植林した時期から考えると続々と成林になる予測がありました。

適時期に伐採出荷していれば相当な出材量だったはずですが、対応できませんでした。

50年にわたるような国家的持続可能な林業政策があれば、今頃、少しは違っていたかもしれません…。

2012年から林業衰退したのか?

戦後の高度経済成長期にもかかわらず、実はこの頃から静かに林業が衰退してきました。

もちろん林業界にも好景気もありました。

住宅や工場の開発行為に所有地がかかり、大儲けした山林所有者も存在します。

優良顧客を持つ林業会社にとっては好業績だった事でしょう。

しかし、全国の林業統計を見ると1960年頃から衰退が始まっていたと言わざるを得ません。

次第に林地は荒廃し、人口減少予測から国内林業存続が危ぶまれます。

災害防止や国土保全の観点からの林業政策が求められます。

いくつかの林業政策が施行されますが、目立った成果がなかったのは現状を見ればわかります。

そこで比較的新しい近年の林業政策を見てみましょう。

森林経営計画制度(2012年森林法改正)

森林法改正で2012年4月から森林経営計画制度が施行されました。

計画的な森林整備、保護並びに合理的な森林経営を期待するのが目的とされてます。

認定された森林経営計画で施業及び保護する運営です。

森林所有者又は経営の委託を受けた者が、自発的に合理的な森林施業及び保護の計画を作成し、市町村長等の認定を受ける制度です。

放置される山林、衰退する林業の対策として、この制度が考えられました。

それにはいくつかの目的があります。

森林経営制度導入の目的

【目的1】森林の利用と管理

日本の山林は自然資源や生態系に重要な役割を果たしてます。

里山を放棄すると、山と住地の緩衝地帯がなくなります。

農地放棄と同じく単に生産中止だけの問題ではないのです。

害獣対策や治山のためにも、山林の持続的な利用と管理が必要でした。

【目的2】林業の振興

木材には住宅建材以外に燃料用や物流材などの需要もあります。

林業が活性化すれば、原木運送や林業消耗品、機械修理、燃料消費など、地域経済において重要な産業を守れます。

地方経済には林業振興が最適でした。

制度導入で林業振興とともに地域経済の発展を促進する狙いがありました。

【目的3】地球環境への配慮

森林は二酸化炭素の吸収源として重要であり、地球温暖化対策においても林業や森林の役割が高まりました。

森林の健全性を保ちつつ、地球環境への配慮を強調するためとされてます。

【目的4】林業の適正化

過去の乱伐や過度な伐採などにより、森林の破壊が進行していた時期もありました。

山林に不法投棄したり、ルールを守らない林業会社も存在してました。

経営計画制度の導入は、林業適正化と持続可能な経営を推進するための監視や手段とされました。

【目的5】地域への利益還元

地域社会への利益還元も考慮されました。

儲かる林業により地域経済へ利益をもたらすことが意図されてました。

森林経営計画制度の問題点

このような背景から、森林経営計画制度は2012年に導入されました。

日本の山林資源が持続的に利用され、森林の健全性が維持されることが期待されました。

ところが、制度の期待とは裏腹に運用効果は限定的でした。

その問題点はどんなことなのでしょうか?

【問題1】不利な小規模林家

制度の要件や補助金の給付条件が大規模施業に有利でした。

たくさんいた小規模林家や山林所有者には不利でした。

制度導入後、早々に小規模林家が排除されていきます。

地域性があって古くからの林業の多様性が減少しました。

【問題2】経営管理の強制

制度では山林所有者に経営管理が強制されてます。

最近で言う「生産性重視」です。

経営管理に関する知識やリソースを持たない林地所有者にとっては大きな負担です。

農家の副業のように林地所有していた人には受け入れられませんでした。

「面倒だからやめるわ…」という方を私は何人も知っています。

【問題3】伝統的な林業手法の軽視

認定の仕方によっては、伝統的な林業手法や優良大径木施業が軽視されます。

良質材を得る古くからの日本林業は、ほぼ全否定されたりします。

森林経営は植林保育に焦点を当てたものが多いように感じられます。

森林経営管理制度(2019年森林経営管理法)

「森林経営計画制度の理解と効果がうまく進んでいなかった…」と感じるのは私だけでしょうか?

2016年頃にもなると、制度の存在すら忘れられているような気もしました…。

山林管理の放棄や林業衰退に歯止めがかかったようには思えませんでした。

そこで、反省を活かして2019年4月から新たな「森林経営管理制度」が始まりました。

前制度では伐採、造林や保育など期待されてた管理がすすみませんでした。

そこで森林所有者が自ら森林整備ができない場合は、市町村が仲介役となり森林整備に取り組む制度となったのです。

森林経営管理法の問題点

「今度こそは…」と思いましたが新たな法律の下で、またもうまく効果が出てきません…。

弊社も山林所有者で法制度に従いました。

やはり山林所有者の負担が増すばかりで、高齢所有者の方にはなかなか理解されてません。

問題点を細かく見ていきましょう。

【問題1】所有者への負担

山林所有者に対して経営管理を義務づけ新たな負担を課します。

山林を相続していることを知らない所有者もいます。

相続人
相続人

山を持ってるけど、どこにあるのか…?

経営管理に関する知識や関心が無い所有者にとっては負担が大きいと思います。

小規模な山林所有者には法の遵守や経営管理が難しい場合があります。

経済的問題や知識不足で、小規模所有者は法の要求に対応するのが難しいと言われてます。

【問題2】所有権の制約に効果がない…

法律に従わない場合は、所有者の権利に制約がかかる可能性があります。

山林所有者の自由度が制限されます。

しかし、そもそも放置山林が多いのも事実です。

ヤマ持ち
ヤマ持ち

負担ばっかりで従いません…、権利の制約があるならどうぞ…

こんな所有者がいるもの確かです。

【問題3】手続きとコストの増加

法律遵守には手続きとコストがかかります。

所有者は計画の作成、提出、監査などの手続きを遵守しなければなりません。

これにかかる費用や時間は山林所有者が負担することになります。

【問題4】地域経済への影響

法律が所有者に負担をかけることにより、意図とは逆に林業を行わない選択をする所有者もいます。

山持ち
山持ち

もう山の手入れをしないことにするわ…

こんな方もいます…。

山林放置や伐採減少が加速すると、地域経済に負の影響が出てきます。

雇用が失われ、地域経済低迷を加速させる可能性があります。

2012年と2019年の森林経営制度について

制度導入後も大きな変化はない…

最近のは2019年からなので政策効果はまだなのかもしれません。

今のところ、各地方の林業を見てるとビミョーな情勢です…。

しかし、林業経営は経済活動である以上、すべてを行政の責任にするわけにはいきません。

それぞれの制度をよく読み進めると、理念は素晴らしいものであることを理解できます。

政策実現のために必要なこと

法は林業の持続可能性や環境保護を目的としています。

本質的に大切な二要件をしっかり盛り込まれています。

しかし、山林所有者への制約が強すぎて、逆に持続可能な林業経営が難しくなっています。

長年の儲からない林業で疲弊しきって、高齢化も進んだ地方林業に高い理念の要求はもう困難なのです。

これらの問題点から負担や制約が大きいため調整や改善しないと、形骸化の恐れがあります。

「小規模山林所有者へのサポートや地域性の多様なニーズに対応するしかないのでは?」と思います。

大規模面積に集約させるなら、それならそれで抜本的な政策が必要なるでしょう。

境界不明瞭、林道整備、所有者不明を放置したまま、どんな政策をすすめても効果は限定的です。

行き詰まる国内林業

私は現役で林業会社を経営してます。

今の経営環境ではそう遠くない将来、弊社も廃業になるでしょう。

YouTubeで公開していると、時々若者から質問がきます。

学生
学生

林業のこれからはどうでしょうか?

学生
学生

親から反対されてます…林業はそんなにダメですかね?

若者
若者

初期投資費用にどれくらい必要ですか?

どの質問にも私はしっかり分析してから、エビデンスを提示して答えるようにしてます。

私情を入れたいですが、結果的に悲観的な回答になります。

本来なら日本の限られた国土を、資源と環境の両面から管理保全するのが公益的で良策のはずなのですが…。

行政政策が林業衰退を招いた訳でない

私の周辺では既に現場を離れた林業者も多くいます。

この現状を受け入れるしかないのでしょう。

紹介した2つの森林経営制度はよくできています。

今はうまく運用できてないのでしょうが適切に運用されれば、国内林業に明るい兆しが見えてくると思います。

制度を批判する人が多いのですが、林業衰退はそれだけでないと思います。

  • 林道は効率よく敷設され管理されてるか?
  • 山林の境界や筆界は生産的なのか?
  • 国際取引価格に見合う木材が生産できるのか?

制度以前にやらなければならないことがあるような気がします。

ただ、このまま無策で林業が崩壊しても、ジャングルのように完全自然に戻った国内森林は勝手にCO2を吸収してくれます。

現状を冷静にみると、国産木材の生産をあきらめ私たちは自然の邪魔をしないことが最適解なのかもしれません。

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